【連載】webバイク小説「桜の街を旅する -岩手県北上展勝地-」最終話

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いよいよ最終話となったwebバイク小説「桜の街を旅する -岩手県北上展勝地-」
春はもうすぐそこまできているのが伝わってきます!
まさかあいつがのぼっているとは…。

北上川のウナギ

何十回、シャッターを切ったのだろうか?

2キロという長い並木道を、
僕はあらゆる角度から撮影していた。

「あっちに鯉のぼりあるよ」

どこからか、そんな声が聞こえた。

——鯉のぼり?

辺りを見渡した。

そばに流れている北上川に、
それらしい物が揺れていた。

ソメイヨシノの樹の間をくぐり、
川沿いに降りてみた。

思わず笑ってしまった。

鯉のぼりは、たしかにそこにあった。

しかし、その規模が想定外だった。

巨大な北上川を横切るように、
大小数百匹の鯉のぼり。
風に揺れて力強く泳いでいた。

「すごいでしょう」

そばにいた女性が僕に声をかけてきた。

足元では、
ミニチュアダックスフンドが座っていた。

「すごいですね。
いったい何匹くらい泳いでるのですかね」

「300匹以上よ」

女性は微笑みながらも、あっさりと答えた。、

「そんなに……ですか」

「毎年やってる一大行事だからね」

「毎年、この鯉のぼりを泳がせているのですか?」

「東日本大震災の年はできなかったけれどね。
かれこれ30年くらいは続いているはずよ」

「すごいですね。そんなに長い期間とは」

女性と僕はしばらく語り合い、
鯉のぼりを見つめた。
 

「ウナギもいるからじっくり見ていって」

そう言いながら女性は静かに去って行った。

……ウナギ

僕は北上川の水面を見つめた。

ウナギがいるのか、この川には。

そういえば高校時代の友人が大学で生物専攻で、
しかもウナギに関する研究をしていた。

「ウナギに特に多いのはビタミンAで、
胃腸病や風邪を予防するんだ。
だからどんどんウナギを食った方がいいぞ」

と言った彼はフライドチキンを
片手にビールを飲んでいた。

しかしウナギは今や養殖が主流のはずだから、
天然のウナギなんて珍しいな。

そんなことを考えながら視線を上げた。
 

思わず、微笑んだ。

ウナギがいた。

それも巨大な大ウナギだ。

鯉のぼりに混じって1匹だけ、
黒くて細長いやつがいた。

確かにあれはウナギだ。間違いなく。

「まさに、ウナギのぼり、じゃないか」

春風を感じながら


北上川の上流から吹く
心地よい風が、
ソメイヨシノの花弁を
いくつか運んだ。

それを感じた瞬間、
岩手山サービスエリアで話した
ドゥカティ乗りの男の声が
頭をよぎった。

——毎年、変わらない景色。
  すごく貴重なことだと思いますよ。

……なるほど。
心の中で、
何かがストンと落ちた気がした。

人々の笑い声を聞き、
流れる北上川を再び、しばらく見つめた。
 

帰る間際、鯉よりも元気に泳ぐウナギに
僕はもう一度だけカメラを向けた。

〈終〉

ABOUTこの記事をかいた人

張山 和希アイコン

北東北を中心にツーリングをし、紀行文やバイク小説を細々と執筆している。 八重洲出版モーターサイクリスト誌の連載をきっかけにライター活動を始めた。 オンロードだけでなく、林道ツーリングやオートバイキャンプなど、色々やっている。 愛車はカワサキW800。