【連載】webバイク小説「春待ちライダー」最終話

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三度の連載となった「春待ちライダー」今回でついに完結!
果たして呪いのカーブとは一体何なのか…?

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俺は一つ、軽く咳払いをし、静かに口を開いた。
「あそこで昔、お前さんのように、コケた奴がいた。」

そういう話は想定内だった、と言わんばかりに青年は頷いた。
「やっぱり、危険な場所なんすかね?」

「時期が悪かったんだ。春先のあそこは、凍りやすいんだ。」

「じゃあ、自分と同じように、転んじゃったんスね。」

「もっと大きく、だ。バイクが廃車になる程にな。」

えー! と言わんばかりに、青年は口を開けてこちらを見た。
信号が青く灯り、俺はアクセルをそっと踏んだ。

「その事故った人は、今はどうしてるんすか?」

「いなくなった。」

「いなくなった!?」

青年は狐にでもつままれたかのように、
口をパクパクさせている。

「マジか、いったいどこへ?」

「わからん。ただ一つ言えるのは、
そいつが事故ってから、あそこのカーブは、毎年のように
事故る奴がいた、ということだ。」

「それって、つまり、」

対向車のライトに照らされた青年の顔に目をやると、
次第に青ざめていくのがわかった。

「あそこは、のろいのカーブ だから気をつけろって、ここらでは有名な話だ。」

「それで、呪いのカーブ、なんスね。」

「お前さんみたいな若い奴は、特に気をつけないとな。」

「な、なんででスか?」

「お前さんみたいに、雪解けの季節に
ウキウキしてバイクに乗ってる若い奴なら、
良い話し相手になってくれるだろうって、のろいは…」

「も、もういいです。も、も、もう、やめましょうこの話。」

焦っている青年を見て、俺は少し口が緩んだ。

「まぁ、雪どけの季節で気分が盛り上がる気持ちはわかるが。」

青年はダッシュボードの当たりを、静かに見つめていた。

「しかし、だ。考えてみな? 大好きなバイクで大怪我して、
これから1年を棒に振ったら、お前さんはどう思う?」

青年は静かに目をつむった。

「1年どころじゃない、俺は色んな奴を見てきた。
事故で重症を負って、半年リハビリして、やっと車椅子生活になれた奴もいた。」

青年は目をつむったまま、静かに聞いている。

「バイクってのはな、最高に自由で楽しい乗り物だ。
走っている時は本当に幸せだ。お前さんみたいな若いライダーとも
こうやって知り合えて、俺は嬉しい。」

青年は目を静かに見開いて、こちらに顔を向けた。
「しかし、俺たちライダーは常に危険と紙一重だってことを、忘れちゃあダメだな。」

青年は再び目をつむり、少しばかり沈黙した。

「情けないなぁ、オレ。」

「不幸中の幸いだよ。その程度の怪我で済んで良かったじゃないか。」

「俺のテクニック不足かぁ。」
青年は頭をポリポリとかいていた。

「色んな意味で、はやく乗ったからって、
かっこいいわけじゃないと思うぞ、バイクってやつはな。」

青年は前を見たまま、静かに頷いた。

「ルールを守って、事故らないように乗れる奴が、一番かっこいい、
と俺は思っている。バイクに限った話ではないが。」

「反省しまス。」
青年は静かに、そうつぶやいた。

「雪が完全に消えたら、あそこのバイク屋でも
ツーリング企画をやる。綺麗になった愛車で、一緒に走りに行こう。」

「そうッスね。自分、いつも1人で走ってたので、そういう企画に
参加するのも楽しそうッスよね。」

青年に笑顔が戻り、俺も嬉しくなった。

家まで送り届けた俺は、軽く握手をして車に戻った。
目をやれば、道路わきの雪山が溶けて
小さな川を作っていた。

「雪解けの季節か。」
静かに、ふぅ、と息を吐いた。

高鳴る気持ちは、俺も一緒だ。
バイク雑誌の立ち読みと、夏の北海道ツーリング候補地ばかりを
調べていた長い冬も、もうすぐ終わる。
そうだ、こんどの休日にでも、雪に埋もれた車庫を掘りおこそう。
そして、冬の間に外していたバッテリーの端子をつないで、
エンジンの暖気でもしてみよう。
そんなことを思い、俺は車を出した。

エピローグ


「おかえり。早かったね。」

何も言わずに店をあとにしたが、
俺が自分の家に帰らず、再び舞い戻ってくることは
オヤジも娘も理解していたらしい。
営業時間がとうに過ぎて看板の電気が消えても、
店内にはまだラジオが響いていた。

「しかし、今年初めての整備が事故車とはね。うちの店も縁起が悪いなぁ。」
皮肉めいた言い方だが、オヤジの顔はほころんでいた。

冬の間、除雪機の整備ばかりをしていたオヤジ。
雪解けを待ちわび、春と共に胸が高鳴るのは、みんな一緒のようだ。

「しかし、よりによって、あそこのカーブでコケたとはね。」

「一見、緩いカーブだが、あそこは両脇が空き地で、風の通りが良い。
この時期だと、凍りやすいんだ。」

「あそこの両脇にあった商店も、軒並み店を畳んで
空き地になって、それからだよね、コケる奴が増えたのは。」

「また呪いのカーブの話? 怖いからやめよぉ?」
娘はうんざりした表情で、俺たちから目を背けた。

オヤジと俺は苦笑いをしてお互いを見つめた。
ラジオからは、この町には少し早い
昔流行った春の歌が流れていた。

「そうそう、ちょうど今くらいの季節だったよね?」

「何が?」

「あそこのカーブでお前がコケて、
バイクを押しながら、うちの店に初めて来たのは。」

「おい!」

もう20年以上前、牛丼屋じゃなくて
ディスコだった時のことだ。

その時、ディスコに入っていくお姉ちゃん達に
ちょっかいを出したくなった俺は、
バイクに乗りながら横を向いて口笛を吹いた。
そして、目を前にやると、あそこのカーブだけ凍っていて
ザーっと転んだ。
という話は、悪いが割愛させてもらおう。

と思ったが、もはや手遅れだった。

「え!? 野呂井(のろい)さんも
あそこのカーブで転んだの!?」

「ああ、あそこは元々こいつが…」

仰天している娘。青年のバイクのカウルを
外し始めたオヤジは、ニヤニヤしながら
野呂井のカーブの由来を話し始めた。

…終

まとめ

いかがでしたでしょうか。
最後の結末には思わず笑ってしまう感じでしたね笑。
読んでいるとなんだか青年の気持ちが身に染みてきてこっちまでバイクに乗りたくなってしまいました。

以上、webバイク小説「春待ちライダー」でした!

ABOUTこの記事をかいた人

張山 和希アイコン

北東北を中心にツーリングをし、紀行文やバイク小説を細々と執筆している。 八重洲出版モーターサイクリスト誌の連載をきっかけにライター活動を始めた。 オンロードだけでなく、林道ツーリングやオートバイキャンプなど、色々やっている。 愛車はカワサキW800。